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長野県立農業大学校の桜  〜人にはたくさんの土地がいるか〜

2017.04.24(23:24) 734

僕がまだ小学生だった頃、父が「少年少女世界文学館」という世界の名作文学を集めたシリーズを定期購読してくれていました。
新刊が月一のペースで発刊されていて、いつも父が仕事帰りに、その新刊をお土産に携えてくるのが待ち遠しくてたまりませんでした。
そんな幼少の頃、夢中になって読んだ話は、今でも印象に残っているものです。
そのシリーズに、「トルストイ著 イワンの馬鹿」という表題作があって、その中の短編に「人にはたくさんの土地がいるか」というお話しがありました。

うる覚えですが、ある農夫がいつか自分の土地を持ちたい、と切望していました。
そんな農夫に甘い話を持ちかける男が現れます。(実は悪魔)
その男は、「日が落ちるまでの間に、歩いた土地がすべてお前のものになる。」と持ちかけます。
それを聞いた農夫は、その話に乗っかり、意気揚々と歩き出します。
農夫は休まず歩き続け、「もうこれだけ歩けば充分だ、そろそろ引き返そう。」と考えた時、ふと前方に陽当たりの良い丘を見つけます。
それを見て農夫は、「どうせならあの丘を手に入れるまで歩こう。」と思い直します。
すると今度は、その先に良い水場となるような沼を見つけてしまい、今度はその沼まで歩き続けようとします。
そうして際限なく、欲に振り回されて歩いてしまったので、約束の日没ギリギリになってしまいます。
そこで農夫は、日没に間に合わる為、なりふり構わず必死で走ります。
その甲斐あって、何とか日が落ちる前に戻ってくる事ができたのですが、辿り着いたと同時にその農夫は死んでしまいました。
結局広い土地を手に入れても、最後に必要になったのは自分の亡骸を納める為の墓穴の広さであった、という何とも皮肉のきいたお話しだったように思います。

小学生だった僕は、この話を読んで、「欲張りすぎだよ!僕なら丁度いい所で引き返す事ができるのに。」と、上から目線で思ったものでした。
ここまで読んで、何となくオチがわかった方もいるかも知れませんが、今朝のジョギングはそんなお話しです。

前回、途中まで車で移動し、そこから走るという、知恵を身につけることになりました。
それによって、ちょっと遠方にまで足を伸ばす事が可能となり、今回は御牧ヶ原にある長野県立農業大学校の桜を見に出かけることにしました。

まずは、「あぐりの湯」という温泉施設の駐車場に車を停めさせて頂き、そこから鴇久保(ときくぼ)の集落を抜けて御牧ヶ原台地へと登って行きます。
この日、朝5時の気温は4度。
ウィンドブレカーを着込んでも身体の芯から冷え込んでくる様な寒さでした。
さすがに土日の陽気で、陽当たりの良い所などは大分桜の花も散り始めている所が目につきましたが、標高700mを越える地点にある鴇久保の集落にある桜は丁度満開の見頃でした。
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鴇久保集落の中心に位置する十二神社。
ちょっと足を止めて、奥の方に進んで行きたい衝動に駆られましたが、まずは御牧ヶ原台地に出る事が目的でしたので、今度の機会にと言う事で。
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しかし、途中まで車で移動したとは言え、御牧ヶ原台地へ行くには、やはりそれなりの急登は覚悟しなければなりません。
あぐりの湯から登る事20分程で、ようやく御牧ヶ原台地に到達する事ができました。
そして飛び込んできた視界には、今までの登りが嘘のように、一面平坦な土地が広がっています。
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ここからアスファルトの道から外れ、畑の畦道へと分け入って行きます。
途中には、「遼太郎の丘」と呼ばれる場所があって、あの司馬遼太郎さんの「街道をゆく」の扉写真の撮影地となった所にも立寄ってきました。
道が一直線に空へと続いています。
晴天の日を選んで、御牧ヶ原に来たのは、この光景を見たかったというのもあります。
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遼太郎の丘のすぐ正面に位置する「茶房 読書の森」さん。
営業時間であれば、立寄ってのんびりしたい所です。
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さらに休む事なく、田園地帯を駆け抜けて行きます。
途中には大小様々な溜池があるのも、この御牧ヶ原台地の特色です。
奈良・平安の時代は朝廷に献上する為の馬の産地(御牧)としての土地でしたが、反面この辺り一帯はまとまった水源がなかった為、今の様な耕作地が開かれるようになったのは明治の始めだったそうです。
少しでも貴重な水を確保する必要があった為、こうした溜池が多く作られたそうです。
辿り着いたのは御牧ヶ原で最も大きい溜池とされる干間無池(ひまむいけ)です。
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都会だとアスファルトじゃない道を探すのが大変ですけど、この辺りじゃアスファルトの道を探す方が大変です。
きっと江戸時代頃の日本の風景はどこもこんな感じだったんでしょうね。
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丘の上に立つ一本の木が印象的でした。
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向こうに見える白い建物は、「こぎつね天文台」と呼ばれる私設の天文台だそうです。
きっと街灯も少ないこの辺りなら天体観測にはもってこいでしょうね。
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見渡す限り広大な田園風景が広がっていると、結構な距離を走っているはずなのに、あまり走っていない様に感じられて、感覚が麻痺してしまいます。
普段ならこまめに走った時間をチェックしているのですが、雄大な景色に気を取られがちとなり、この時点で時間にしてどれくらい経過しているのかを、全然意識していませんでした。
ようやく農業大学の敷地に到達すると、丘の上に立派な桜の木が見えてきました。
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トラクター練習場の一隅に植えられている桜。
遮る物がなく枝振りものびのびと張り出しているようです。
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トラクター練習場の全景。
空が広くて気持ちがいいです。
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この後も、「いい道だなあ」と思うところが一杯あって、「あっちも寄りたい」「あの丘の上にも登ってみたい」などと、思いつくまま寄り道していたら、ゆうに一時間以上走り続けていました。
ようやく、「あれ・・・、もしかして帰りの時間を考えるとかなり厳しくない!?。。。」という考えがよぎるように。
それでも、行きの登り分、帰りは下りとなるので、「まあ、なんとかなるでしょう。」とも感じていました。
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あとは、この下り坂を一気に駆け下りるだけと言う所で、脇道に立派な桜の木を見つけました。
道の入口には、「あぐりの湯へ」という案内看板もあって、桜の木を鑑賞がてら、ルートを変えてみる事としました。
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桜の下には祠にはお地蔵様が据えられていて、御牧ヶ原台地の入口に立って、静かにこの辺り一帯を見守っているようです。
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さて、この道を素直に道なりに下って行けば、いずれはあぐりの湯に着くものだと、さして疑いもせず前へ前へと進んで行きます。
しかし、進めば進む程、ドンドンあぐりの湯の方角から遠ざかっている感覚が強くなってくるのです。
確か、この道を少し入った所に、下へと向かう小道があった様な・・・・、さすがの方向音痴を自覚する僕でも、頭の中でアラームが鳴り響くようになります。
とは言え、快調に下ってきた道を、引き返す事になれば、必然的に戻る道は丸々登り坂。
そんなためらいがあって、なかなか戻る決心がつかず、余計に距離を踏んでしまいました。

時間と睨めっこしつつ、思い悩んだ末、引き返す事に決めました。
最初に見かけた小道の分岐点まで戻ったら、そこから斜面を下っていきます。
ルートを外れてしまった事で、到着予想時間を大幅にオーバーしてしまった為、急な斜面を転がるようにして駆け下って行かなくてはなりませんでした。
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一気に100mの高さを下りきった先に、あぐりの湯へと続く舗装された道へと出る事ができ、ホッと胸を撫で下ろすと同時に、息も絶え絶えの状態になってしまいました。
まさしく冒頭にご紹介した物語の農夫の様な失態を演じてしまった訳です。
かくして小学生だった僕が、「欲張りすぎだよ!」と揶揄していた大人の姿がここにありました。
人はいつの間にか、大人になってしまうのですね。。。。。

スキャン

御牧ヶ原の風景はどこを切り取っても素晴らしい絶景ばかりで、欲張っていろいろな所に足が向いてしまうのも、しょうがないですよね。
今度は、途中引き返す事になったあの道がどこまで続いているのか、時間のある時に確かめてみたいと思います。


おまけ
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舗装された道路に着いた時に最初に目についたマンホールの蓋。
こちらは浅間山と懐古園のデザインになっていました。


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天長地久 ~長野県東御市から送る鍼灸師の日常~


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